● ほっともっと店長は管理職? 静岡地裁平成29年2月17日
弁当店「ほっともっと」店長は権限や裁量のない「名ばかり管理職」で、残業代が支払われなかったのは違法だとして、元店長の30代女性が運営会社「プレナス」(福岡市)に未払い賃金など511万円と懲罰的付加金の支払いを求めた訴訟。
訴状などによると、愛知県在住の30代女性は2012年7月、「ほっともっと」チェーンを運営する「プレナス」(福岡市)に入社。同年11月に静岡県内の店舗に店長として配属され、最大月280時間を超える労働を強いられたが、同社は店長が労働基準法で定める「管理監督者」に該当するとして、残業代を支払わなかった。女性は体調を崩し13年9月から休職し、14年10月末に休職期間満了で退職しました。
●労働審判
静岡地裁は労働審判で同年10月、店長は管理監督責任者に該当しないとして、同社に残業代120万円の支払い義務があることを認めたが、同社は異議を申し立てていました。
労働審判に不服のある当事者は,審判書を受け取った日又は期日において労働審判の告知を受けた日の翌日から起算して2週間以内に,裁判所に対して異議の申立てをすることができます。適法な異議の申立てがあれば,労働審判はその効力を失い、労働審判事件は訴訟に移行し,初めから審理が行われることになります。
●労働基準法のいう「管理監督者」とは
労働基準法は、給与などで相応の待遇を受ける「管理監督者」は残業代の支給対象外と規定しています。訴訟では元店長が管理監督者に該当するかが争点となりました。
ここで、「管理監督者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。
企業内で管理職とされていてもとされていても、労働基準法上の「管理監督者」に該当しない場合には、労働基準法で定める労働時間等の規制を受け、時間外割増賃金や休日割増賃金の支払が必要となります。
運営会社は「店長は経営に責任を持つ管理監督者」と主張していました。
●静岡地裁の判断
静岡地裁は17日、原告の請求を認め、約160万円の支払いを命じました。判決理由で、元店長について「勤務実態や権限から、管理監督者に当たるとはいえない」、「アルバイト採用などで限定的な権限しかなく、店舗運営は本社のマニュアルに従っていた」と指摘しました。労働時間についても「自由裁量で決めることができたとまではいえない」と述べています。原告の年収は320万円ほどで、同社の管理監督者以外の平均年収と大差がないとして「高い待遇を受けていたとは認められない」と認定。これらのことから「店長は管理監督者とする」と定めた就業規則は労基法に反し、無効と指摘しました。
●休業損害については認めず
一方、過労で体調を崩したとして原告側が求めていた損害賠償は「法定外労働は40~70時間程度で、著しく多かったわけではない」と退けています。
●懲罰的付加金とは
付加金とは、労働者が勤務先の使用者(会社※個人事業主も含む)に対して未払いとなっている「解雇予告手当」た「休業手当」「残業代(休日出勤手当も含む)」「有給休暇中の賃金」の支払いを求める際に、実際に未払いとなっている金額に加算して請求できるお金のことをいいます。
「解雇予告手当」「休業手当」「残業代(休日出勤手当も含む)」「有給休暇中の賃金」といった法律で義務付けられている金銭の支払いをしない悪質な使用者に「付加金」という懲罰的なお金を加算させて支払わせることで、「解雇予告手当」「休業手当」「残業代(休日出勤手当も含む)」「有給休暇中の賃金」の不払いを抑制させる趣旨で設けられています(労働基準法第114条)。