東京エムケイ運転手ら40人超、未払い賃金求め続々提訴
朝日新聞デジタル 1月3日(金)7時17分配信
大手タクシー・エムケイグループの「東京エムケイ」(東京都港区)の運転手らが「求人票通りに月給が支払われていない」として、未払い分の支払いを求める訴訟を東京地裁に相次いで起こしている。先月までに計42人が提訴。請求額は約4億円に上る。1月中に5人が提訴予定で、最終的には全従業員の1割近い約50人になる見通しだ。代理人の弁護士は「同社の体質が問われる」と話している。
訴えによると、同社はハローワークの求人票などで「固定月給35万円」として運転手を募集。だが、月8~9日の公休日以外すべて出勤しても、基本給に諸手当を加えた月額は、約20万円にしかならない。また乗車前の車の点検や降車後の洗車、運行記録の記入時間など1日計2~3時間ほどが残業時間に算入されず、月額10万~30万円が未払いと主張している。
一方、同社側は「固定月給35万円」は、公休日に出勤した場合の手当や残業代なども含む額▽点検や洗車に2時間もかからず、乗車前や降車後は合計30分を勤務時間に算入している――などと反論している。
同社は1997年設立で、東京の銀座、汐留の営業所からタクシーを配車するほか、成田、羽田両空港へのハイヤー送迎サービスなどを展開。訴訟については「係争中なのでコメントできない」としている。
朝日新聞社
●求人票の賃金額は契約内容となるか
ハローワークに求人を出す場合、企業には、労働条件を明示することが義務づけられています。そのため、労働者は、ハローワークの求人票に記載された賃金額を得られると考えがちです。しかし、実際の賃金額は、労働者と企業との間の雇用契約に基づいて決められます。企業がハローワークを通じて労働者の募集を行い、労働者がこれに応募しただけでは、まだ雇用契約は成立しておらず、必ずしも、求人票に記載された賃金額をもらえるとは限りません。実際、求人票に記載された賃金額をもらえないとして、上記ニュースのように紛争になることは少なくありません。
本件では、どのような法律構成で主張しているか、かならずしも明らかではありませんが、記事には、「『求人票通りに月給が支払われていない』として、未払い分の支払いを求める」とあります。しかし、労働者は、求人票に記載されている賃金を当然に請求できるわけではありません。
●損害賠償リスク
もっとも、企業が合理的な理由なく求人票記載の賃金額を引き下げて労働者に提示し、その内容で雇用契約が成立した場合、企業に信義則違反があったとして、慰謝料支払義務を負う可能性もあります。
●遅延損害金・付加金のリスク
また、記事には「1日計2~3時間ほどが残業時間に算入されず、月額10万~30万円が未払いと主張している。」とあります。求人票通りの賃金を支払い、労使関係がこじれていなければ請求されなかったであろう未払い残業代を請求されるリスクもあります。もちろん、企業が未払い残業代を支払うことは、当然のことではありますが、未払いの割増賃金(残業代・休日手当・深夜手当)を請求する場合,遅延損害金も一緒に請求されます。また、この未払い割増賃金を訴訟で請求する場合には,さらに「付加金」も併せて請求することができます。「付加金」とは,割増賃金を支払わなかったことについての使用者に対する一種の制裁金のようなものです。本件でも、求人票記載の賃金額を契約内容として裁判所が認めなくても、裁判所の企業に対する心証を悪くし、裁判所が付加金を課す可能性があります。
●求められる企業の対応
ですから、企業としては、安易に求人票記載の賃金額を下げることは避けるべきでしょう。仮に、賃金額を引き下げる場合でも、求人票記載の賃金額を下げる必要性を労働者に説明すべきです。そのうえで、労働者が変更を了解した旨の書面を取り付ける等の手段を講じることで、労働者との間でトラブルが起きるリスクを下げるべきでしょう。