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代表弁護士 小川敦也

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人事権行使の限界 東京地判平成7年12月4日

事 案

被告銀行の降格を含む一連の行為は、原告を含む中高年齢従業員を辞職に追い込む意図をもってなされた不法行為であるとして慰謝料5000万円の支払いを求めた

争 点

人事権の行使は、どのような場合に権利濫用となるか

結 果

慰謝料として金100万円

判 旨

使用者が有する採用、配置、人事考課、異動、昇格、降格、解雇等の人事権の行使は、雇用契約にその根拠を有し、労働者を企業組織の中でどのように活用・統制していくかという使用者に委ねられた経営上の裁量判断に属する事柄であり、人事権の行使は、これが社会通念上著しく妥当を欠き、権利の濫用に当たると認められる場合でない限り、違法とはならないものと解すべきである。しかし、右人事権の行使は、労働者の人格権を侵害する等の違法・不当な目的・態様をもってなされてはならないことはいうまでもなく、経営者に委ねられた右裁量判断を逸脱するものであるかどうかについては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点が考慮されるべきである
 被告銀行在日支店においては、昭和五六年以降、新経営方針の推進・徹底が急務とされ、原告らこれに積極的に協力しない管理職を降格する業務上・組織上の高度の必要性があったと認められること、役職手当は、四万二〇〇〇円から三万七〇〇〇円に減額されるが、人事管理業務を遂行しなくなることに伴うものであること、原告と同様に降格発令をされた多数の管理職らは、いずれも降格に異議を唱えておらず、被告銀行のとった措置をやむを得ないものと受けとめていたと推認されること等の事実からすれば、原告のオペレーションズテクニシャンへの降格をもって、被告銀行に委ねられた裁量権を逸脱した濫用的なものと認めることはできない。
 被告は、「総務課配転は、原告の希望であり、組合の要求でもあったので業務上の必要性がないにもかかわらず、原告を総務課に配転した。」旨主張するが、原告は、総務課においてA課長の行っていた職務の一部を担当したいと述べていたのであり、総務課であればいかなる業務に就くことも差し支えないとの趣旨ではなかったと認められる。
 また、被告は、右配転についても原告が同意していたかのように主張するが、原告は、前記降格のときと同様、業務命令として発令されるのであればやむを得ない旨述べたことはあるが、これをもって右配転に同意していたと認めることはできない。
 総務課の受付は、それまで二〇代前半の女性の契約社員が担当していた業務であり、外国書簡の受発送、書類の各課への配送等の単純労務と来客の取次を担当し、業務受付とはいえ、原告の旧知の外部者の来訪も少なくない職場であって、勤続三三年に及び、課長まで経験した原告にふさわしい職務であるとは到底いえず、原告が著しく名誉・自尊心を傷つけられたであろうことは推測に難くない。
 原告は、同年五月から、備品管理・経費支払事務を担当したが、従来同様、昼休みの一時間は、総務課員のうち原告だけが受付を担当していた。そして、備品管理等の業務もやはり単純労務作業であり、原告の業務経験・知識にふさわしい職務とは到底いえない。
 原告に対する総務課(受付)配転は、これを推進したB人事部長自身、疑念を抱いたものであって、その相当性について疑問があり、オペレーションマネージャーのCは、受付業務に就いていた原告に対し、「エンジョイしているか。」と話しかけるなどしており、かつて昭和五七年三月、Dを「メッセンジャークラーク」に発令したときと同様、原告ら元管理職をことさらにその経験・知識にふさわしくない職務に就かせ、働きがいを失わせるとともに、行内外の人々の衆目にさらし、違和感を抱かせ、やがては職場にいたたまれなくさせ、自ら退職の決意をさせる意図の下にとられた措置ではないかと推知されるところである。そして、このような措置は、いかに実力主義を重んじる外資系企業にあり、また経営環境が厳しいからといって是認されるものではない。
 そうすると、原告に対する右総務課(受付)配転は、原告の人格権(名誉)を侵害し、職場内・外で孤立させ、勤労意欲を失わせ、やがて退職に追いやる意図をもってなされたものであり、被告に許された裁量権の範囲を逸脱した違法なものであって不法行為を構成するというべきである。

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