労働者にとって一番の関心事が賃金にあることは間違いありません。使用者にとっても賃金制度のあり方は常に悩みの種でしょう。労働法は賃金にかかわる様々な規律を定めています。これらの内容・趣旨を理解し、労務管理に生かして頂きたいと思います。
労基法11条は、賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」をいうと定めています。この規定からは、「賃金」に当てはまるためには、a.使用者が支払うものであること、b.労働者に支払われるものであること、c.労働の対償であること、という3つの条件を満たす必要があることが分かります。逆に、これらの要件を満たせば、どのような名称がついているかは関係ありません。
最低賃金制度とは、最低賃金法に基づき国が賃金の最低額を定め、使用者は、その最低賃金額以上の賃金を労働者に支払わなければならないとする制度です。
最低賃金法違反容疑で書類送検(平成25年5月の送検事例) 中央労働基準監督署は,弁当販売業を営む個人事業主を最低賃金法違反 の容疑で,平成25年5月13日,東京地方検察庁に書類送検した。 〈事件の概要〉 被疑者は,東京都千代田区内において,個人で弁当販売業を営んでいた者である。 平成22年以降,複数の労働者から中央労働基準監督署に対し,「賃金が不払となっている」との申立がなされたことから,中央労働基準監督署において,その都度事実関係を確認の上,被疑者に対し法違反を是正するよう文書での勧告等を繰り返し行ってきたが,いずれも是正されることなく,捜査に着手した。 被疑者は,平成23年5月21日から同年6月20日までの賃金について,所定支払日である同年6月30日に支払わず,もってこの間に適用される東京都最低賃金額である1時間当たり821円以上の賃金額を支払わなければならないのに支払わなかった。 |
賃金支払いの5原則
賃金は、(1)通貨で、(2)全額を、労働者に(3)直接、(4)毎月1回以上、(5)一定期日を定めて支払わなければなりません。賃金から税金、社会保険料等法令で定められているもの以外を控除する場合には、労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者との労使協定が必要です。
1.通貨払いの原則 |
2.直接払いの原則 |
3.全額払いの原則 |
4.毎月1回以上一定期日払いの原則 |
A引越社を提訴=弁償金天引きで従業員ら―名古屋地裁 時事通信 7月31日(金)17時11分配信 「Aさんマーク」のテレビCMで知られる「H社」(名古屋市中川区)の従業員らが、客の荷物が破損した際などの弁償金を給料から天引きされるなどしたのは不当だとして、同社やグループ会社に約7000万円の支払いを求める訴えを31日、名古屋地裁に起こした。 訴状によると、同社は引っ越し作業中に発生した荷物の破損や交通事故などの賠償に必要な金額を「弁済金」名目で従業員の給料から天引きしていた。 原告の元従業員Sさん(28)は「衣服が入っていた段ボールが雨でぬれた際、クリーニング代約15万円を現場にいた6人で払わされた」と振り返り、「違法に取られたお金を返してほしい」と訴えた。 代理人弁護士によると、原告は20~30代の男性従業員ら12人。東京や大阪でも同様の訴訟を予定しており、原告は計約30人に上る見込み。 引越社は「訴状の内容を確認できていない。内容を精査し、対応を検討していく」とコメントした。 |
割増賃金
労働者に時間外労働、深夜労働(原則として午後10時~午前5時)、または休日労働をさせる場合には、会社は割増賃金を支払う必要があります(法定の労働時間を超えて労働させる場合、深夜労働させる場合:2割5分以上、法定の休日に労働をさせる場合:3割5分以上)。なお、平成22年4月1日から、大企業において1ヶ月に60時間を超える時間外労働を行う場合の割増賃金率が5割に引き上げられました。
休業手当
会社の都合により労働者を休業させた場合、休業させた所定労働日について、平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払わなければなりません。
ここで「平均賃金」とは、原則として、以前3か月間に、その労働者に支払われた賃金の総額をその期間の総日数(暦日数)で除した金額をいいます。
減給の定めの制限
減給を無制限に行うことは許されていません。近時、大手コンビニエンスストアで病欠のアルバイト学生のバイト代からペナルティーとして減額していた事案がニュースとなりました。
セブンイレブン、病欠のバイトに「罰」 不当に減給 2017年1月31日10時43分 朝日新聞デジタルより一部抜粋 コンビニエンスストアを展開するセブン―イレブン・ジャパンの東京都武蔵野市内の加盟店が1月、アルバイトの女子高校生(16)のバイト代から、かぜで2日欠勤したペナルティーとして、9350円を差し引いていた。 (略) セブン―イレブン・ジャパンは「ペナルティーの理由が不適切で、減給の額も労働基準法に違反している」として、加盟店に高校生への謝罪と全額の返還を指示したという。(略) |
労働基準法16条は、使用者の労働者に対する違約金・損害賠償額の予定の禁止を定めています。労働者の就労の態様や内容を理由として、使用者が労働者に対し罰金を課すことや事前に一定の損害賠償額を支払うことを約束させることは許されておりません。この規定の趣旨は、違約金や損害賠償額予定の存在が、労働者の退職を思いとどまらせるなど自由意思を拘束し、労働者を使用者に隷属させることを防ぐことにあります。
したがって、今回のようにアルバイト従業員が病気により欠勤したことを理由に使用者が罰金を課すことは労働基準法16条に抵触する可能性があります。
さらに、罰金として給料から一方的に天引きする事にも問題があります。
労働基準法24条は、「賃金全額払いの原則」を定めています。「賃金全額払いの原則」とは、使用者が賃金の一部を控除することは許されないとする原則をいいます。これは、使用者が賃金の一部を控除することを禁止することで、労働者に賃金の全額を確実に受領させ、その生活の安定を図ろうとするものです。
減給を実施する場合は、①一回の減給賃金が1日分の賃金を超えてはいけません。また、②その総額が以前の賃金支給額の10%を超えるものであってはならないとされています。さらに、③減給の制裁を行うには、あらかじめ就業規則で定めておくことが必要となります。
賃金債権の消滅時効
賃金の消滅時効期間は2年間、退職手当は5年間となります。