懲戒解雇とは
「懲戒解雇」とは,企業秩序違反行為に対する制裁罰である懲戒処分としての解雇のことを言います。
懲戒解雇の有効性
労働契約法は,懲戒処分について,「使用者が労働者を解雇できる場合において,当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的理由を欠き,社会通念上相当と認められない場合は,その権利を乱用したものとして,当該懲戒は無効とする」しています。
懲戒解雇は,以下の要件を満たす必要があります。
(1) |
懲戒事由等を明定する合理的な規定の存在 |
(2) |
規定に該当する懲戒事由があること |
(3) |
①不遡及の原則 |
②一事不再理の原則 |
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③平等 |
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④処分の重さが相当 |
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⑤適正手続きを得ていること |
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⑥懲戒処分の必要性が存続していること |
懲戒事由等を明定する合理的な規定の存在
懲戒解雇が有効となるには,まず,①懲戒事由及び懲戒の種類が就業規則等に規定されていることが必要です。そして,②その規定が労働者に周知されていることが必要です。さらに,③その規定の内容が企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものでなければなりません。
規定に該当する懲戒事由があること
懲戒解雇が有効となるには,就業規則に定めた懲戒事由に該当する事実の存在が必要となります。多くの場合は,「その他前各号に準ずる行為のあったとき」と包括的な規定がなされています。
その他の要件
(1)不遡及の原則
当該行為が行われた後に制定された就業規則の懲戒事由に基づき,懲戒処分をすることは許されません。
(2)一事不再理の原則
過去に既に懲戒処分の対象とされた事由に関して,重ねて懲戒処分することは許されません。
(3)平等な扱いであること
同じ規定に同じ程度の違反をした場合は,これに対する懲戒処分も同内容・同程度のものでなければなりません。
(4)処分の重さが相当であること
懲戒処分の重さは,規律違反の内容・程度その他の事情に照らして相当なものでなければなりません。
(5)適正手続きを経ていること
規則に定められた手続きを経ない懲戒解雇は無効になることがあります。規則に手続きを定めていない場合であっても,本人に弁明の機会を与えなければなりません。
(6)懲戒処分の必要性が存続していること
懲戒事由発生から相当期間経過した後になされた懲戒処分は,その必要性が存続していないものとして無効となる可能性があります。
元琴光喜が二審も敗訴 賭博で解雇「正当」 2014.2.5 17:00 MSN産経ニュース 野球賭博を理由にした解雇は重すぎるとして元大関琴光喜の田宮啓司さん(37)が日本相撲協会を相手取り地位確認を求めた訴訟の控訴審判決で東京高裁は5日、1審東京地裁判決と同様に「解雇は正当」と判断し、田宮さん側の請求を退けた。 判決によると、田宮さんは平成22年5月、協会の事情聴取に野球賭博への参加を否定。しかし協会から説得されて参加を認め、協会は同年7月に解雇処分を決めた。 大竹たかし裁判長は「常習的に野球賭博に加わった上、協会にうそを申告した。社会的影響は大きい」と指摘。「高い地位を考慮すれば、他の力士らの処分に比べて重すぎるということはない」と判断した。 |
「高い地位を考慮すれば、他の力士らの処分に比べて重すぎるということはない」という判断は、「同じ規定に同じ程度の違反をした場合は,これに対する懲戒処分も同内容・同程度のものでなければならない。」という平等原則の主張に対する判断でしょう。この判断は、一般の企業にも当てはまり、地位・役職によっては重い処分が科すこともあり得るでしょう。
現金着服で免職、2審も取り消し…元大阪市職員 読売新聞2014年4月12日(土)07:45 河川清掃中に集めたごみから見つかった現金などを着服したとして懲戒免職処分になった元大阪市職員5人が、処分の取り消しを求めた訴訟の控訴審判決が10日、大阪高裁であった。 小島浩裁判長は「処分は重すぎて違法」と述べ、処分を取り消した1審・大阪地裁判決を支持し、市側の控訴を棄却した。 控訴審判決によると、市河川事務所の作業員だった5人(42~56歳)は、作業中に拾った現金を分け合い、各数万円を受け取ったなどとして2010年12月に懲戒免職処分を受けた。 判決理由で小島裁判長は、職場ぐるみで日常的に繰り返していた行為で、歴代所長は容易に知ることができたのに放置したと指摘。その上で「拾ったゴルフバッグを私物化するなどし、職員の行為を助長した所長の停職処分に比べ、作業員の懲戒免職処分は著しく妥当性を欠く」と結論づけた。市人事室は「判決を精査し、今後の対応を検討する」としている。 |
懲戒処分を行うためには、予め就業規則に懲戒規定を定め、労働者に周知しておかなければなりません(明確性の原則)。さらに、同じ行為について、労働者によって処分の種類や程度を差別的に取り扱うことはできません(平等取扱いの原則)。
規則に定められた手続きを経ない懲戒解雇は無効になることがあります。規則に手続きを定めていない場合であっても,本人に弁明の機会を与えなければなりません。
事案(2015年12月25日 20時38分 共同通信より) |
東京メトロで勤務し、痴漢行為を理由に解雇された男性が、解雇の無効を求めた訴訟。男性は2007年4月入社。13年12月、電車内で女性の体を触ったとして逮捕され、罰金刑が確定した。昨年4月、諭旨解雇の懲戒処分となった。 |
判決(東京地裁平成27年12月25日判決) |
男性の勤務態度に問題がなかったことや、弁明の機会が十分に与えられなかったことを挙げ「懲戒権の濫用に当たる」と指摘、「処分は重過ぎる」として無効と認める判決を言い渡した。 |