2017年
3月
08日
水
● ほっともっと店長は管理職? 静岡地裁平成29年2月17日
弁当店「ほっともっと」店長は権限や裁量のない「名ばかり管理職」で、残業代が支払われなかったのは違法だとして、元店長の30代女性が運営会社「プレナス」(福岡市)に未払い賃金など511万円と懲罰的付加金の支払いを求めた訴訟。
訴状などによると、愛知県在住の30代女性は2012年7月、「ほっともっと」チェーンを運営する「プレナス」(福岡市)に入社。同年11月に静岡県内の店舗に店長として配属され、最大月280時間を超える労働を強いられたが、同社は店長が労働基準法で定める「管理監督者」に該当するとして、残業代を支払わなかった。女性は体調を崩し13年9月から休職し、14年10月末に休職期間満了で退職しました。
●労働審判
静岡地裁は労働審判で同年10月、店長は管理監督責任者に該当しないとして、同社に残業代120万円の支払い義務があることを認めたが、同社は異議を申し立てていました。
労働審判に不服のある当事者は,審判書を受け取った日又は期日において労働審判の告知を受けた日の翌日から起算して2週間以内に,裁判所に対して異議の申立てをすることができます。適法な異議の申立てがあれば,労働審判はその効力を失い、労働審判事件は訴訟に移行し,初めから審理が行われることになります。
●労働基準法のいう「管理監督者」とは
労働基準法は、給与などで相応の待遇を受ける「管理監督者」は残業代の支給対象外と規定しています。訴訟では元店長が管理監督者に該当するかが争点となりました。
ここで、「管理監督者」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者をいいます。「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断します。
企業内で管理職とされていてもとされていても、労働基準法上の「管理監督者」に該当しない場合には、労働基準法で定める労働時間等の規制を受け、時間外割増賃金や休日割増賃金の支払が必要となります。
運営会社は「店長は経営に責任を持つ管理監督者」と主張していました。
●静岡地裁の判断
静岡地裁は17日、原告の請求を認め、約160万円の支払いを命じました。判決理由で、元店長について「勤務実態や権限から、管理監督者に当たるとはいえない」、「アルバイト採用などで限定的な権限しかなく、店舗運営は本社のマニュアルに従っていた」と指摘しました。労働時間についても「自由裁量で決めることができたとまではいえない」と述べています。原告の年収は320万円ほどで、同社の管理監督者以外の平均年収と大差がないとして「高い待遇を受けていたとは認められない」と認定。これらのことから「店長は管理監督者とする」と定めた就業規則は労基法に反し、無効と指摘しました。
●休業損害については認めず
一方、過労で体調を崩したとして原告側が求めていた損害賠償は「法定外労働は40~70時間程度で、著しく多かったわけではない」と退けています。
●懲罰的付加金とは
付加金とは、労働者が勤務先の使用者(会社※個人事業主も含む)に対して未払いとなっている「解雇予告手当」た「休業手当」「残業代(休日出勤手当も含む)」「有給休暇中の賃金」の支払いを求める際に、実際に未払いとなっている金額に加算して請求できるお金のことをいいます。
「解雇予告手当」「休業手当」「残業代(休日出勤手当も含む)」「有給休暇中の賃金」といった法律で義務付けられている金銭の支払いをしない悪質な使用者に「付加金」という懲罰的なお金を加算させて支払わせることで、「解雇予告手当」「休業手当」「残業代(休日出勤手当も含む)」「有給休暇中の賃金」の不払いを抑制させる趣旨で設けられています(労働基準法第114条)。
2015年
6月
29日
月
大阪地方裁判所平成26年(ワ)第30025号,平成26年(ワ)第30026号 平成27年3月26日第5民事部判決
(1)労働契約において,給与は最も基本的な要素であるから,給与減額に関する口頭でのやり取りから労働者の同意の有無を認定するについては、事柄の性質上,そのやり取りの意味等を慎重に吟味検討する必要があるというべきである。
ア 以上を前提に本件を検討することになるところ,被告は,原告が本件給与減額に同意していたと主張し,認定事実(5)イのとおり,原告が1月のミーティングにおいて「しゃあないですね」と発言したことは認められる。
しかし,P2は,陳述書(乙21)及び被告代表者尋問において,1月のミーティングでP2が原告に対して給与減額への協力要請についての返答を求めると「しゃあないですね」と曖昧に返答したので,さらに平成25年2月分の給与から減額させてもらうと返答を迫ると原告は再び「しゃあないですね」と答えたと供述するが,原告は,陳述書(甲11)及び本人尋問において,1月のミーティングでは給与減額について「難しいです,生活が厳しい」などと異論を述べた,同ミーティングにおける,「しゃあないですね」と発言したが,これは売上げが減少していることに関しての発言であると供述する。このように,原告の前記発言の経緯や意図するところについて両者の供述が齟齬するところ,この際のやりとりに関して特段の書面等も作成されておらず,いかなる趣旨で原告が前記発言をしたのかは必ずしも明らかではない。そして,P2の供述を前提にしても,原告の給与減額に対する返答としては「しゃあないですね」という極めて曖昧なものであり,給与減額には納得できないが,P2との関係で角が立たないように曖昧な返答にとどめたとも理解しうる言い回しであることをも併せ考慮すれば,原告の「しゃあない」という発言が,本件給与減額に同意する趣旨のものであるかについて,その前後の事情を踏まえて吟味するのが相当である。
イ(ア)原告の被告への関与の度合い及び被告の経営状態
a 認定事実(1)アのとおり,P2は,原告の依頼を受けて被告を設立したのであり,原告は被告設立と深く関わっており,その上,認定事実(2)イ,ウのとおり,原告は被告の専務取締役兼営業本部長としてP2と経営に関するミーティングを行うなど経営にも深く関与していたこともうかがわれる。
また,認定事実(3)のとおり,被告における売上げ,特に労働者派遣事業の売上げは,平成24年7月以降,減少傾向にあり,その理由が法規制の強化等の影響であることからすれば,今後,労働者派遣事業による売上げが改善する見通しもなかったのであり,何らかの対策を講じる必要はあったといえる。
b しかし,認定事実(2)エのとおり,原告は,被告の資本関係に関しては被告の増資の際に一旦,出資金の一部を立て替えたにすぎない。
また,P2については,認定事実(3),(4)アのように被告の経営状態等に応じて被告からの報酬額等が変動したのに対して,認定事実(5)ウのとおり原告の給与額は入社後一貫して50万円であり,原告は経営者として売上げが増加したことによる恩恵にあずかったことはない。
さらに,原告には,P2のように認定事実(4)イのような別途の収入源はなく,認定事実(5)ウのとおり,本件給与減額により,預金を取り崩して生活することを余儀なくされるなど,本件給与減額が原告やその家族に与える打撃は大きかったことも認められる。
c そうすると,前記aのとおり,原告が被告設立の経緯や経営に深く関与しており,被告は経営状態の悪化に対して何らかの対応を迫られていたとはいえるにしても,前記bの各事情を考慮すれば,原告が,被告の経営難を救うため,自らとその家族の生活を犠牲にして給与の2割減額という重い負担を甘受する合理的な理由はないといわざるを得ない。
(イ)原告が本件給与減額に異議を述べたり,本件協議の際に差額給与の支払を請求していないこと
a 認定事実(5)アないしエのとおり,原告はP2から2度にわたり給与減額への協力要請を受けており,本件給与減額後にはP2に異議を述べることなく,減額後の給与を受領し,認定事実(7)イのとおり,本件協議の際,本件給与減額について言及しながら,差額給与の支払を求めてはいないことは認められる。
b しかし,原告が,本件給与減額に異議を述べなかったのは,認定事実(5)エのとおり,諦念からであるといえる。
また,原告は本件協議の際,本件給与減額に言及しながら差額給与の支払を求めていない。しかし,原告が本人尋問において,差額給与を請求することになったのは原告代理人に相談した際に指摘を受けたためであり,労働者の同意なく給与を減額することはできない旨の法的知識は余りなかったと供述することを踏まえると,原告が労働者の同意のない給与減額は無効であり支払請求できるとの認識がなかったためであるとも理解できる。そして,認定事実(7)イのとおり,原告は,本件協議の際に本件給与減額は痛かったと不満を漏らしているのであるから,本件給与減額に不満があり,これに同意していなかったことをうかがわせる事実ともいい得る。
c そうすると,前記aのとおり,原告が本件給与減額に異議を述べたり,本件協議の際に差額給与の支払を請求していないことはあるにしても,前記bのとおり,直ちに,本件給与減額に同意していたことを推認させる事実とはいえない。
(ウ)Y社の設立及び退職
原告はP2に対して給与の増額を求める代わりに収入を上げるため新たにY社を設立し(認定事実(5)エ,オ),被告を退職した(認定事実(6))のであり,原告のこれらの行動は,被告を見限るものとも評価し得るものである。
そうすると,原告のこれらの行為は,被告の経営難を乗り切るために自らを犠牲にして本件給与減額に同意する行動とは矛盾する行動であり,原告が本件給与減額に同意していなかったことの表れであるとも評価できる。
(エ)まとめ
以上のとおり,前記の諸事情を総合考慮しても,原告が本件給与減額に合意していたものとは認め難く,その他,原告が本件給与減額に同意したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することも認められない。
よって,原告の「しゃあないですね」という発言をもって,原告が本件給与減額に同意したものと認めることはできず,被告の原告が本件給与減額に同意していたとの主張は理由がない。
2014年
9月
21日
日
パートタイム労働法改正のポイント(施行日平成27年4月1日)
1 正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者の対象範囲の拡大
正社員と差別的取扱いが禁止されるパートタイム労働者については、これまで、(1) 職務内容が正社員と同一、(2) 人材活用の仕組み(人事異動等の有無や範囲)が正社員と同一、(3) 無期労働契約を締結しているパートタイム労働者であることとされていましたが、改正後は、(1)、(2) に該当すれば、有期労働契約を締結しているパートタイム労働者も正社員と差別的取扱いが禁止されます。
2 「短時間労働者の待遇の原則」の新設
事業主が、雇用するパートタイム労働者の待遇と正社員の待遇を相違させる場合は、その待遇の相違は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならないとされます。
3 パートタイム労働者を雇い入れたときの事業主による説明義務の新設
事業主は、パートタイム労働者を雇い入れたときは、実施する雇用管理の改善措置の内容について、説明しなければならないこととなります。
4 パートタイム労働者からの相談に対応するための事業主による体制整備の義務の新設
事業主は、パートタイム労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないこととなります。
2014年
8月
02日
土
派遣期間制限を脱法的に逃れる方法の類型として以下の3つがあります。いずれも派遣法の趣旨を潜脱するものです。
①偽装直接雇用型
②偽装移動型
③偽装直接雇用申し込み型
下記のニュースはその例と言えます。
マツダ、解雇の元派遣社員に和解金支払いで合意
2014年07月22日 22時04分
山口県防府ほうふ市のマツダ防府工場を雇い止めされた元派遣社員15人が、派遣先のマツダ(本社・広島県府中町)を相手取り、正社員としての地位確認などを求めた訴訟は22日、広島高裁(川谷道郎裁判長)で和解が成立した。
原告弁護団によると、15人は職場復帰せず、マツダが全員に和解金を支払うという。金額や詳しい内容は双方の取り決めで公表しない。
15人は2003年7月~09年3月に半年~5年半、同工場で働いたが、08年11月~09年3月に解雇され、09年4月に提訴した。
13年3月の1審・山口地裁判決は、同社が独自に設けた「サポート社員」という制度を使い、一定期間直接雇用した後、派遣社員に戻す方法で長期間雇用を続けたことについて、「労働者派遣法に違反する」と指摘し、13人を正社員と認定。サポート社員の経験がない2人の請求は棄却した。原告側とマツダ側の双方が控訴していた。
2014年07月22日 22時04分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
2014年
8月
02日
土
社員の糖尿病、企業把握せず…基準にもばらつき
従業員の糖尿病の有無を企業の3分の1が把握しておらず、健康診断で受診を促す基準にもばらつきがあることが、中部ろうさい病院(名古屋市)の中島英太郎・糖尿病・内分泌内科部長らの調査でわかった。
調査は2012年6~12月、全国9195社に糖尿病対策についてアンケート方式で聞き、810社から回答があった。
従業員が糖尿病かどうか把握していない企業は36・5%だった。企業の規模が小さくなるほど把握率は下がる一方、糖尿病の有病率は高くなる傾向があった。
健康診断で血糖値の状態をみるヘモグロビンA1cの値について、健診施設の基準とは別に、社員の健康指導のために独自の判定基準を設けている企業が190社あったが、内容はまちまちだった。例えば、52・6%の企業がA判定(異常なし)の上限を5・5~6・1%の間に設定する一方、同じ値の幅の間にD判定(要受診・要再検査)の下限を設定している企業も41・6%あった。B判定(軽度異常)、C判定(要経過観察)の社員に、4分の3の企業は特別な対応をしていなかった。
2014年07月28日 20時03分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
過去には、糖尿病につき労災認定を争った事案もあります。まずらしい事案ですが、労務管理上、注意を喚起する意味でも参考になります。
「過労で糖尿病発症」大阪の男性が労災認定求め提訴
2011.4.20 20:23
長期間の過重労働で糖尿病を発症したとして、すし店チェーンに勤務していた元従業員の男性(60)=大阪市=が国に労災認定を求めて大阪地裁に提訴したことが20日、分かった。男性は生活習慣に起因するとされる2型糖尿病。大半の日本人患者が2型とされるが、訴訟で過労と糖尿病の因果関係が争われるのは異例という。
訴状によると、男性は平成4年4月にすしチェーンに入社し、調理を担当していた。19年夏以降、両足がむくむなど症状が悪化。糖尿病と診断されて、休職を余儀なくされた。男性は休業補償などを請求したが、労働基準監督署は不支給を決定した。
男性側は「入社以来、時間外労働はおおむね月150時間に及んでおり、糖尿病の発症は長期間の過労が原因」と主張している。
厚生労働省は脳・心臓疾患の労災認定基準として、時間外労働が発症前2~6カ月で月平均80時間を超える場合などと定めているが、糖尿病にはこうした基準がないという。
MSN 産経ニュース
2014年
1月
03日
金
東京エムケイ運転手ら40人超、未払い賃金求め続々提訴
朝日新聞デジタル 1月3日(金)7時17分配信
大手タクシー・エムケイグループの「東京エムケイ」(東京都港区)の運転手らが「求人票通りに月給が支払われていない」として、未払い分の支払いを求める訴訟を東京地裁に相次いで起こしている。先月までに計42人が提訴。請求額は約4億円に上る。1月中に5人が提訴予定で、最終的には全従業員の1割近い約50人になる見通しだ。代理人の弁護士は「同社の体質が問われる」と話している。
訴えによると、同社はハローワークの求人票などで「固定月給35万円」として運転手を募集。だが、月8~9日の公休日以外すべて出勤しても、基本給に諸手当を加えた月額は、約20万円にしかならない。また乗車前の車の点検や降車後の洗車、運行記録の記入時間など1日計2~3時間ほどが残業時間に算入されず、月額10万~30万円が未払いと主張している。
一方、同社側は「固定月給35万円」は、公休日に出勤した場合の手当や残業代なども含む額▽点検や洗車に2時間もかからず、乗車前や降車後は合計30分を勤務時間に算入している――などと反論している。
同社は1997年設立で、東京の銀座、汐留の営業所からタクシーを配車するほか、成田、羽田両空港へのハイヤー送迎サービスなどを展開。訴訟については「係争中なのでコメントできない」としている。
朝日新聞社
●求人票の賃金額は契約内容となるか
ハローワークに求人を出す場合、企業には、労働条件を明示することが義務づけられています。そのため、労働者は、ハローワークの求人票に記載された賃金額を得られると考えがちです。しかし、実際の賃金額は、労働者と企業との間の雇用契約に基づいて決められます。企業がハローワークを通じて労働者の募集を行い、労働者がこれに応募しただけでは、まだ雇用契約は成立しておらず、必ずしも、求人票に記載された賃金額をもらえるとは限りません。実際、求人票に記載された賃金額をもらえないとして、上記ニュースのように紛争になることは少なくありません。
本件では、どのような法律構成で主張しているか、かならずしも明らかではありませんが、記事には、「『求人票通りに月給が支払われていない』として、未払い分の支払いを求める」とあります。しかし、労働者は、求人票に記載されている賃金を当然に請求できるわけではありません。
●損害賠償リスク
もっとも、企業が合理的な理由なく求人票記載の賃金額を引き下げて労働者に提示し、その内容で雇用契約が成立した場合、企業に信義則違反があったとして、慰謝料支払義務を負う可能性もあります。
●遅延損害金・付加金のリスク
また、記事には「1日計2~3時間ほどが残業時間に算入されず、月額10万~30万円が未払いと主張している。」とあります。求人票通りの賃金を支払い、労使関係がこじれていなければ請求されなかったであろう未払い残業代を請求されるリスクもあります。もちろん、企業が未払い残業代を支払うことは、当然のことではありますが、未払いの割増賃金(残業代・休日手当・深夜手当)を請求する場合,遅延損害金も一緒に請求されます。また、この未払い割増賃金を訴訟で請求する場合には,さらに「付加金」も併せて請求することができます。「付加金」とは,割増賃金を支払わなかったことについての使用者に対する一種の制裁金のようなものです。本件でも、求人票記載の賃金額を契約内容として裁判所が認めなくても、裁判所の企業に対する心証を悪くし、裁判所が付加金を課す可能性があります。
●求められる企業の対応
ですから、企業としては、安易に求人票記載の賃金額を下げることは避けるべきでしょう。仮に、賃金額を引き下げる場合でも、求人票記載の賃金額を下げる必要性を労働者に説明すべきです。そのうえで、労働者が変更を了解した旨の書面を取り付ける等の手段を講じることで、労働者との間でトラブルが起きるリスクを下げるべきでしょう。
2014年
1月
02日
木
非正社員(パートタイム労働者、アルバイト社員)に対する労務コンプライアンスの重要性が説かれるようになっております。そこで、近時の裁判例をニュースよりご紹介します。
「正社員と同額の賞与」一部認定 パート訴訟で大分地裁 同等待遇の法的根拠は認めず
2013.12.10 18:59 (産経ニュース)
正社員と同じ業務内容にもかかわらず、パート労働者であるためにボーナスや休日の割り増し賃金が低いのは違法として、大分市の男性(50)が勤務先の運送会社(東京)に、差額分の支払いや慰謝料などを求めた訴訟の判決で、大分地裁は10日、請求の一部を認め会社に約325万円の支払いを命じた。
判決で中平健裁判官は「業務内容は正社員と同じであり、賞与や休日の割り増し分の差別に合理的な理由はない」と判断した。原告側は差別的扱いを禁じたパート労働法を根拠に、正社員と同等の待遇も求めたが、判決は「同じ待遇にするべきだとする法規定はない」として退けた。
判決によると、男性は2006年からパート労働法の対象となる「準社員」として、大分事業所で貨物自動車の運転手として勤務した。1日あたりの労働時間は正社員より1時間短い7時間だったが、業務内容は正社員と同じだった。
●パートタイム労働法とは
パートタイム労働法は、正式には、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」といいます。略称として「パートタイム労働法」、「パート労働法」が使われております。
●パートタイム労働法の対象
パートタイム労働法の対象である「短時間労働者(パート労働者)」は、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者(正社員)の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされています。例えば、「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、「パート労働者」としてパートタイム労働法の対象となります。
●パートタイム労働法第8条
パートタイム労働法第8条は、以下のように、通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止を定めています。
1. 事業主は、職務の内容、退職までの長期的な人材活用の仕組みや運用などが通常の労働者と同一のパートタイム労働者であって、期間の定めのない労働契約を締結している者については、パートタイム労働者であることを理由として、その待遇について、差別的取扱いをしてはならない。
2. 1の期間の定めのない労働契約には、反復更新によって期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当と認められる有期契約を含むものとする。
●対象者:3要件を満たすパートタイム労働者
1.職務の内容が同じ
2.人材活用の仕組みや運用など が全雇用期間を通じて同じ
「人材活用の仕組みや運用などが全雇用期間を通じて同じ」とは、パートタイム労働者が通常の労働者と職務が同一になってから、退職までの期間において、事業所の人事システムや慣行から判断して同じ、となる場合です。
3.契約期間が実質的に無期契約
(1)「契約期間が実質的に無期契約」とは、次の2つの場合です。
a)期間の定めのない労働契約を結んでいる場合
b)期間を定めて労働契約を結んでいても、期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当とされる場合
(2)期間を定めて労働契約を結んでいても、期間の定めのない労働契約と同視することが社会通念上相当とされる場合の主な判断基準は、以下のとおりです
a) 業務の客観的内容
(恒常的な業務に従事しているのか、臨時的な業務に従事しているのか、通常の労働者の業務との違いがあるのか)
b) 契約上の地位の性格
(契約上の地位が臨時的か)
c) 当事者の主観的態様
(継続雇用を期待させる事業主の言動や認識があったか)
d) 更新の手続・実態
(反復更新の有無や回数、勤続年数、契約更新時の手続方法)
e) 他の労働者の更新状況
(同様の地位にある労働者の雇い止めの有無)
2013年
12月
30日
月
●権利濫用法理による配転命令の制限
配転が、労働契約の範囲内であり、法令によって禁止されている行為にあたらない場合でも、権利濫用にあたる場合には無効となります。権利濫用かどうかの判断は、以下の事情を総合的に判断して決められます(最判昭和61年7月14日)。
1.当該人員配置の変更を行う業務上の必要性の有無
2.人員選択の合理性
3.配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされているか否か
4.当該配転が労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか否か
5.その他上記に準じる特段の事情の有無(配転をめぐるこれまでの経緯、配転の手続きなど)
●不当な目的・動機の有無
不当な目的・動機がある場合の典型例としては、①労働者を退職させるために行われる場合、②会社に対して批判的な言動を行ってきた人物に対する転勤命令などが挙げられます。
しかし、不当な目的・動機というものは主観的なものなので、目に見えるものではありません。そこで、訴訟実務において不当な目的・動機の存在を立証するにあたっては、以下のような客観的事情かその有無を推認することになります。
①具体的な配転命令の内容
②配転命令に至るまでの経過
これに対し、使用者はそのような目的・動機の不存在が主張され、配転命令の正当性を基礎付けるための業務上の必要性や人選の合理性が主張されることになります。反対に、業務上の必要性が否定されるケースでは、不当な目的・動機が認定される可能性が高いといえます。
しかし、こういった主張の結果、双方の主張が大きき食い違い、どちらとも言えないこともあります。その場合には、客観的な事実である配転命令の内容等がどちらの言い分に沿ったものか(客観的事実とそれぞれの主張の整合性)と言う視点から判断されることになります。
2013年
12月
30日
月
権利濫用法理による配転命令の制限
●配転が、労働契約の範囲内であり、法令によって禁止されている行為にあたらない場合でも、権利濫用にあたる場合には無効となります。権利濫用かどうかの判断は、以下の事情を総合的に判断して決められます(最判昭和61年7月14日)。
1.当該人員配置の変更を行う業務上の必要性の有無
2.人員選択の合理性
3.配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされているか否か
4.当該配転が労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか否か
5.その他上記に準じる特段の事情の有無(配転をめぐるこれまでの経緯、配転の手続きなど)
●通常甘受すべき程度を著しく超える不利益
労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益として主張される典型例としては、以下のようなものがあります。
①家族の介護を行っている労働者や転居が困難な病気を家族が患っている場合
②転勤に伴い単身赴任を余儀なくされる場合
③通勤に長時間を要する場合
●労働者が被る不利益の程度が通常甘受すべき範囲を超えるかどうかの範囲は、諸事情から総合的に判断されるものですが、一般的にみて、裁判例には以下のような傾向がみられます。
(1)介護や病気を理由とする場合
通常労働者が甘受すべき範囲をこえたものとして権利濫用に該当すると判断される可能性が高い
(2)単身赴任等を理由とする場合
通常甘受すべき範囲内の不利益であると評価される可能性が高い。その際、使用者からの配慮の有無についても考慮されている。
2013年
12月
26日
木
住友生命、元社員に4千万円支払い パワハラ訴訟で和解
朝日新聞2013年12月11日(水)12:57
住友生命保険(大阪市)の元社員の女性が「上司のパワハラでうつ病になり、退職に追い込まれた」として、会社と元上司に計約6300万円の損害賠償を求めた訴訟が大阪地裁(阪本勝裁判長)で和解した。会社側が行きすぎた言動を認めて謝罪し、解決金4千万円を支払う内容で合意した。和解は11月13日付。
原告の女性は保険外交員を束ねる出張所の元所長。訴状によると、女性は2006年ごろから、会議の席上などで出張所を所管する支部長に「成績がよくないのは所長のせい」「所長が致命傷や」と怒られたと主張した。
女性は07年7月から体調不良で休職し、09年6月に退職。国の労働保険審査会は10年6月、「感情的な叱責(しっせき)が長期間行われた。指導の範囲を超えている」と指摘した上で労災認定した。
女性は11年6月に提訴。会社側は「指導は奮起を期待する趣旨で、嫌がらせやいじめではない」などと反論したが、地裁の勧告を踏まえ和解した。原告、被告双方とも「コメントできない」としている。
>本件では4000万円という非常に高額な解決金となっています。女性が求めていた約6300万円の内訳ですが、毎日新聞によれば、「女性は翌年6月、慰謝料や退職による逸失利益を求め提訴した。」とのこと。パワハラにより自殺に追い込まれた事案でないかぎり、同じ退職に追い込まれた事案でも一般に認められる慰謝料はそれほど高額ではありません。今回は、退職による逸失利益が大きいのでしょう。
千葉県に50万円賠償命令 麻酔科医へのパワハラ訴訟
2013.12.11 18:55 産経ニュース
千葉県がんセンター(千葉市)で麻酔科医として勤務していた40代の女性が、違法な医療行為をやめるよう上司に訴えたところパワハラを受け退職に追い込まれたとして県に200万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、千葉地裁は11日、50万円の支払いを命じた。
金子直史裁判長は判決理由で「上司の手術管理部長は女性の要求を敵対的行為と受け止め、報復として手術麻酔担当などから外し、退職を余儀なくさせた」と認定。「職務を奪われてから退職までの期間は短い」として賠償額を減らした。
判決によると、女性は同センターで歯科医が扱えない麻酔を患者にかけているのを見つけ、2010年夏にセンター長を通して手術管理部長にやめさせるよう求めたが、仕事を減らされて同年9月に退職した。
>だからといって、使用者はパワハラ問題を過小視することはできません。企業のパワハラ対策はコンプライアンス上、その必要性を増しています。
パワハラ:基準緩和 増える労災認定
毎日新聞 2013年12月11日 02時30分
パワハラを原因とした労災認定は年々増えている。2009年に国が認定基準を緩和したためだ。厚生労働省はパワハラについて「同じ職場の人に精神的・肉体的苦痛を与え、職場環境を悪化させる行為」と定義し、具体的には暴行、脅迫、暴言、隔離、無視などの行為を挙げている。
09年以降、パワハラを含めた仕事のストレスが原因のうつ病などを、労災として認定するケースが増えた。12年度は475件と10年前(03年度、108件)の4.4倍に急増している。
訴訟も増え、賠償を命じる判決も相次いでいる。うつ病になって退社を余儀なくされた保険会社の元女性外交員のケースでは、鳥取地裁米子支部が09年、パワハラとうつ病との因果関係を認め、会社側に約330万円の支払いを命じた。
労働問題に詳しい江上千恵子弁護士(東京弁護士会)は「労災認定されれば、裁判所も会社の責任を重くみるのは当然だ。パワハラ訴訟は以前は少なかったが、最近は弁護士も被害者に提訴を勧めるようになっている」と話す。【小林慎】
>うつ病と労災(労災認定基準について)
うつ病が業務に起因するものであるかどうかの認定基準につき、「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(平成23年12月26日付通達)は以下のように定めております。
1.対象疾病を発病していること。
うつ病、躁うつ病、統合失調症、急性ストレス反応等一定の精神障害を発病していること
2.対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること。
発病前おおむね6か月の間に、職場での出来事の心理的負荷が「強」と認定されることが必要です。
3.業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと。
生活上の心理的負荷が「強」と判定されたり、もともと罹っていた精神疾患が再発したと判定され、業務による心理的負荷の強度より強い場合は、この要件を満たさないことになります。